〜インドでわしもカモられた〜 −まえがき−


 時は199X年……。『世紀末』という言葉がちらほらと耳に入るようになってきた頃、僕はこの世で現実にファンタジーの世界を肌身で味わおうと思い立ち、現代に残されたリアル・ファンタジー・ワールドはないかと探ってみた。それならアフリカ奥地かアマゾン秘境と行きたいところだが、僕の冒険者としての経験値では、それは無理な話だった。
 結局出た答はインド半島一周。期間は3ヶ月以内。なぜかと言うと、3ヶ月ビザを取ったからだ。日本で取れるインドの観光ビザには他に、6ヶ月ビザというものもあるが、これは手続きが面倒だし、半年日本で金を稼ぎ、あとの半年をインドでだらだらと遊んで暮らすというライフ・スタイルを持つ人もいると聞くけれども、そもそもそんなに時間と金を費やしているゆとりは僕にはなかった。3ヶ月で一周できるのか? ええい、そのようなことは考えまい。それが冒険というものだ。
 ちょいと一週間の観光のつもりが、インドへ行ってしまったがために、国を捨て、家族を捨て、会社も捨て、パスポートまで捨てて南アジア大陸を放浪し続ける者がいるという。なぜパスポートを捨てるかと言うと、万が一、警察などに調べられた場合などに、ビザ切れになっていることがばれないようにだそうだ。つまり何国の国民であるということまで自ら放棄してしまっているのだ。
 何が彼らをそうまでさせるのだろう? そこに何があるというのだろう? 『神秘の国インド』! いや、実は存外何もないのかもしれない。あれこれ憶測するより、それは行ってからのお楽しみということにしとこう。既に綿密なスケジュールも立てた。準備も万端調えた。いざ、現代のリアル・ファンタジー・ワールドへ向けて出発! わはははは、これで抜かりはないだろう……??








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